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欧州では常識?日本の建材メーカーが今こそ知っておきたい「EPD」「LCA」とサステナブル建築の未来

26.07.17

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「環境配慮型の建材を開発しよう」「BIMに対応してデータを整えよう」——最近、社内や業界内でこうした声が高まり、どのように対応すべきか情報収集を始められている建材メーカーのご担当者も多いのではないでしょうか。
これまでは「品質」「価格」「納期」が、設計者やゼネコンが建材を選定する際の3大要素でした。しかし今、世界中で建築のルールが大きく変わろうとしています。新たに加わり、今後の建材選定で重要視されるであろう第4の要素。それが「サステナビリティ(環境負荷)データ」です。
従来の「エコな製品」という言葉だけでのアピールは、今後は不十分になる可能性があります。これからは「どれくらい環境に配慮されているか」を国際的なルールに則った正確な数値データとして開示することが、設計者の方々に選ばれる(スペックインされる)ための重要な鍵となっていくからです。
本記事では、建材メーカーの皆様がこれからの市場で新たな強みを発揮するために押さえておきたい「EPD」「LCA」といった重要キーワードから、欧州の最新動向、環境省・国土交通省の動き、そして「2028年」に大きなターニングポイントを迎える日本の建築業界のリアルを分かりやすく解説します。

第1章 初心者がまず押さえるべき「3つの必須用語」

環境配慮に関する専門用語はアルファベットの略語が多く、とっつきにくい印象があるかもしれません。しかし、これらは今後の建材提案において、自社製品の強みを正しく伝えるための「共通言語」となります。まずは押さえておくべき3つのキーワードを、メーカー目線で分かりやすく解説します。

1. LCA(ライフサイクルアセスメント):建材の「一生」を評価する

LCAとは、製品が環境に与える負荷を、その一生(ライフサイクル)を通じて科学的かつ定量的に評価する手法のことです。 建材におけるLCAは、単に工場で製品を作る時だけを評価するものではありません。原料の採掘から製造、現場への輸送、施工、建物の解体、そして最終的な廃棄やリサイクルに至るまでの「全ての工程」が対象となります。 設計者から「この建材のLCAデータを出してください」と言われたら、それは「原材料調達から廃棄までの環境負荷のカルテを見せてほしい」という意味だと捉えるとイメージしやすいでしょう。

2. CO2エミッション(ライフサイクルカーボン / LCCO2):見えないCO2を可視化する

これまでの日本の建築業界における「省エネ」は、建物が完成した後のエアコンや照明の電気代、つまり「運用時のCO2排出量(オペレーショナルカーボン)」に焦点が当てられていました。 しかし今、世界的に注目されているのは、建材の製造や輸送、建物の建設・解体時に発生するCO2である「エンボディドカーボン(内包炭素)」です。実は、このエンボディドカーボンは国内全体のCO2排出量の約1割を占めるとも言われています。 建物の運用時の省エネ性能が限界に近づきつつある中、これからの脱炭素の重要な焦点は「建材そのもののCO2削減や、そのデータの可視化」へとシフトしつつあります。

3. EPD(環境製品宣言)と J-CAT:データの信頼性を担保する

LCAの計算結果をメーカーが独自に算出しても、基準が異なれば他社製品との客観的な比較ができません。そこで必要になるのが、第三者機関に認証してもらい開示する「EPD(Environmental Product Declaration)」です。いわば、食品パッケージの裏にある「栄養成分表示」の環境版のようなものです。設計者はこの認証データを見て、どの建材がどれだけクリーンかを客観的に比較・選定します。
また、日本国内では国土交通省などが推進する「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」の正式版が公開されています。これは建築物のライフサイクル全体を通じたCO2等の温室効果ガス排出量を算定するための日本における公式ツールであり、国内のルール作りはすでに具体的な実行フェーズに移っています。

第2章 【欧州の動向】環境情報の開示がスタンダードになる背景

「環境データの厳密な開示なんて、まだ一部の先進的な企業だけの話では?」と思われるかもしれません。しかし、海の向こうのヨーロッパに目を向けると、状況は大きく変わりつつあります。環境規制における欧州の動向は、数年後の日本のスタンダードになることが多々あります。現在、欧州では環境データの開示が「推奨」から「必須」へと変わるパラダイムシフトが起きています。

エコデザイン規則(ESPR)とDPPの動向

欧州連合(EU)では、持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)が導入され、製品のサステナビリティに対する要件がかつてないほど高まっています。 このESPRの中核をなす仕組みが「DPP(デジタル製品パスポート)」です。DPPとは、製品のライフサイクルを通じた環境データや材料の構成、リサイクル性などをデジタル空間で追跡・共有する仕組みのことです。

建材もデジタル製品パスポートの対象に

欧州委員会の資金提供を受けている「CIRPASS-2」プロジェクトでは、DPPの実装に向けた大規模な実証実験が進められていますが、ここには建材メーカーにとって非常に重要な事実が含まれています。

「プロジェクトは、13のライトハウス・パイロットにより、4つのターゲット・バリューチェーン(繊維、電気電子機器、タイヤ、建設資材)において、実際の環境下で大規模に機能するDPPを実証します。」

このように、実証実験の対象として「建設資材(Construction Materials)」が明確に組み込まれています。 これは、今後は「環境データ(DPP)が紐付いていること」が、ヨーロッパ市場で展開するための基本的な要件になっていく可能性を示しています。環境負荷の「見える化」と、それに伴う改善活動が、企業にとって市場での信頼を得るための重要なステップとなっているのが欧州の現状です。

第3章 【日本の動向】2028年「建築物LCA制度開始」へのロードマップ

こうした欧州の動きは、決して遠い国の話ではありません。日本国内でも国を挙げた制度化やガイドラインの策定が着実に進んでおり、対応の足音が近づいています。

2028年度、建築物LCA制度開始へのロードマップ

国土交通省は、「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」を立ち上げ、日本の建築業界におけるCO2削減の具体的な方針を議論しています。ここで示されたロードマップに沿って、建築業界全体の仕組みが本格的に動き出そうとしています。

「『建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議』において、2028年度を目途に建築物LCAの実施を促す制度の開始を目指すことを盛り込んだ基本構想が決定された...」

つまり、2028年度には建築物の計画から解体に至るまでの環境負荷を算定・評価する制度が日本でもスタートする予定です。

公共工事からの波及と、国による強力な予算支援

さらに、政府は「政府実行計画」を閣議決定し、公共建築物の資材製造から解体に至るまでのライフサイクル全体を通じた温室効果ガスの排出削減に努めることを位置付けています。公共工事で定着した基準は、いずれ民間工事にも波及していくことが予想されます。

この制度化に向けて、国の予算による支援策も動き出しています。国土交通省の予算でも、建築物の脱炭素化を促進するための施策が組まれています。 特に注目すべきは、「BIMと連携したLCAの実施等への支援」です。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の3Dモデルと、建材ごとの「CO2排出原単位」を紐付けることで、効率的に建築物全体のLCAを算定する取組に対し、補助金による支援などが行われています。また、低炭素型の建材を使用する新築ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)に対する補助金制度も整備されつつあります。

これからの「スペックイン」で選ばれるための条件

これらの動きが意味する未来は明確です。 設計者は今後、国が主導する制度や補助金に対応するため、BIMを使って建築物全体のLCAを計算する機会が増えていきます。その際、設計者は「CO2排出量のデータがBIMに連携できる建材」と「データがない、あるいは連携しにくい建材」のどちらを選ぶでしょうか。

裏を返せば、製品の価格や品質が優れていても、データが不足しているために検討候補から外れてしまうリスクが生じるかもしれません。だからこそ、早い段階で自社の建材のCO2排出量データ(原単位)を正確に算出し、BIMデータとしてスムーズに提供できるようにしておくことが、今後の建材選定において競合他社に先んじて選ばれるための大きなアドバンテージになります。

第4章 まとめ:サステナビリティは「CSR」から「成長戦略」へ

環境データの算出や開示は、これまで「環境に優しい企業」というブランドイメージを向上させるためのCSR活動(企業の社会的責任)の一環として捉えられがちでした。

しかし、ここまで見てきたように、欧州での規制の潮流や、2028年を見据えた日本国内の制度化・BIM連携の波を考慮すれば、サステナビリティ情報の開示はもはや「これからのビジネスで選ばれ続けるための重要な戦略」へと変化しています。

自社の主力製品がどれだけのCO2を排出して製造されているか、臨機応変にそのデータを設計者の方々に届けられる形式になっているか。2028年のLCA制度開始を見据えると、今から少しずつ準備を始めておくことが推奨されます。

この新しい波を、他社に先駆けて自社の価値をアピールする「絶好のビジネスチャンス」と捉え、まずは自社製品のLCA評価やデータのデジタル化、BIMとの連携検討など、できるところから一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。


参考・出典元一覧】