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BIMとEPDの連携が拓く、サステナブル建築の未来:データ駆動で実現する脱炭素社会への設計図

25.11.20

はじめに:建設業界に突きつけられた二つの要請

現代の建設業界は、生産性の向上という内的な課題と、脱炭素化という社会的な要請に同時に応えることを求められています。
特に、建物のライフサイクル全体で排出されるCO2の削減は、気候変動対策における重要なテーマであり、従来の省エネ設計(オペレーショナルカーボン)だけでなく、建材の製造から建設、解体に至るまでの「エンボディドカーボン」への注目が世界的に高まっています。

この複雑な課題に対する強力な解決策として、建築のデジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引する「BIM(Building Information Modeling)」と、環境性能の透明性を担保する「EPD(Environmental Product Declaration)」の連携が急速に重要性を増しています。

本稿では、EPDとは何か、そしてBIMとの連携が建築設計のプロセスをいかに変革し、持続可能な社会の実現にどう貢献するのかを解説します。

1.EPD(環境製品宣言)の詳解:信頼できる「環境性能のものさし」

1.1 EPDの定義と本質

EPD(環境製品宣言)とは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境影響を、国際規格であるISO 14025に準拠して定量的に開示する国際的な仕組みです。
これは、主観的な「環境にやさしい」という表現ではなく、客観的なデータに基づいた透明性の高い情報開示を目的としています。EPDは、特定の基準を満たしたかどうかの「合格 / 不合格」を示すエコラベルとは異なり、製品の環境負荷に関する数値をそのまま公開する「情報開示」の仕組みである点が最大の特徴です。
これにより、設計者や発注者は、異なる製品の環境性能を公平な土俵で比較検討することが可能になります。

1.2 科学的根拠となるLCA(ライフサイクルアセスメント)

EPDの信頼性を支えているのが、LCA(ライフサイクルアセスメント)という科学的な評価手法です。LCAは、原料調達から製造、使用、そして廃棄・リサイクルに至る製品の全段階における環境への影響を包括的に評価する手法です。

評価対象は、CO2排出量(地球温暖化)だけでなく、エネルギー消費、水資源の使用、大気汚染、水質汚濁など、多岐にわたる環境影響領域をカバーします。この包括的なアプローチにより、ある特定の環境課題を解決するために別の問題を引き起こすといった「トレードオフ」を避け、本質的な環境負荷の低減を目指すことができます。

1.3 信頼性を担保する厳格なガバナンス

EPDが国際的に信頼される情報として機能するためには、厳格なルールと検証プロセスが不可欠です。その核となるのが「PCR(製品カテゴリールール)」と「第三者検証」です。

  • PCR(Product Category Rule): コンクリート、鉄骨、断熱材といった製品群ごとに定められた、LCAの算定・評価に関する共通のルールです。これにより、異なるメーカーの同種製品であっても、同じ基準で環境負荷が計算され、公平な比較が可能となります。

第三者検証: EPDとして公開されるすべてのデータは、独立した認定検証員による厳格な第三者検証を受けることが義務付けられています。このプロセスにより、企業による意図的な数値操作や誤解を招く表現(グリーンウォッシュ)が排除され、情報の客観性と信頼性が担保されるのです。

2.BIMとEPDのシナジー:データ駆動型サステナブル設計の実現

EPDが提供する標準化された環境データを、BIMが持つ情報管理能力と組み合わせることで、建築の脱炭素化は新たな次元へと進化します。

2.1 BIM:3Dモデルを超える情報プラットフォーム

BIMは、単なる3次元の可視化ツールではありません。その本質は、建築物の物理的・機能的特性をデジタルで表現し、設計から施工、維持管理に至るライフサイクル全体で情報を一元管理するプロセスそのものにあります。BIMモデル内の壁や窓といった各オブジェクトは、形状データに加え、材質、コスト、性能仕様といった豊富な属性情報を持つデータベースとして機能します。

この情報基盤としての特性が、EPDデータとの連携を可能にします。

2.2 BIM-EPD連携のワークフロー

BIMとEPDの連携は、BIMモデル内のオブジェクトにEPDデータを属性情報として付与することで実現されます。具体的には、設計者がBIMソフトウェア上で配置した壁や床のオブジェクトに、それを構成するコンクリートやフローリング材のEPDから得られたエンボディドカーボン情報(例:CO2排出量)を直接関連付けます。

このプロセスは、ソフトウェア開発がすすめられており、大幅に効率化されています。これらのツールは、Autodesk RevitなどのBIMソフトウェアから材料の数量情報を自動で抽出し、それをEPDデータベースと照合することで、建物全体の環境負荷を迅速かつ正確に算出します。

2.3 設計プロセスの革新:「フロントローディング」の実現

この連携がもたらす最大のメリットは、設計プロセスの初期段階で環境性能を最適化できる「フロントローディング」にあります。

従来、建物のLCA評価は設計がほぼ完了した後に行われることが多く、その結果を設計にフィードバックすることは困難でした。しかし、BIM-EPDワークフローを導入することで、設計者は自らの設計判断が環境に与える影響を、設計の最中にほぼリアルタイムで評価できるようになります。

例えば、構造システムを鉄骨造にするか木造にするか、外壁材をアルミパネルにするかタイルにするかといった選択肢について、それぞれのエンボディドカーボン値を即座に比較検討できます。これにより、サステナビリティはプロジェクト終盤のチェック項目ではなく、コストや意匠と並ぶ設計の基本パラメータへと昇華します。最も大きな環境負荷削減効果を最も低いコストで実現できるのは、プロジェクトの概念設計段階であり、BIMとEPDのシナジーは、まさにこの「サステナビリティのフロントローディング」を可能にするのです。

3.EPD導入の戦略的価値と今後の展望

EPDの活用は、単なる環境配慮活動にとどまらず、企業や業界全体に戦略的なメリットをもたらします。

3.1 企業・設計者にもたらす競争優位性

  • データに基づく最適な建材選定: 客観的なEPDデータを用いることで、経験や勘に頼らず、真に環境性能の高い材料を論理的に選択できます。
  • 付加価値の高い提案力: 環境意識の高い発注者に対し、「この設計案はCO2排出量をXX%削減できます」といった具体的な数値での提案が可能となり、プロジェクトの価値を高めます。
  • 新たな市場での競争力: 建材メーカーにとって、EPDを取得し、BIMオブジェクトとして提供することは、自社製品の環境性能をアピールし、設計者に選ばれるための強力なマーケティングツールとなります。

国際的な潮流への対応:LEEDなどの国際的なグリーンビルディング認証ではEPDの活用が評価されるため、認証取得を有利に進めることができます。

3.2 業界と社会の変革

BIMとEPDの連携は、個々のプロジェクトを超え、市場全体の変革を促す力を持っています。設計者が低炭素な建材を積極的に選択するようになると、それは建材メーカーに対する明確な市場シグナルとなります。この需要に応えるため、メーカーはよりクリーンな生産プロセスへの投資やEPD取得を加速させます。結果として、設計者の選択がメーカーの技術革新を促し、建設バリューチェーン全体での脱炭素化の好循環が生まれるのです。

3.3 今後の展望と課題

日本では、国土交通省が2025年度までにすべての公共事業において原則BIM/CIMを適用する目標を掲げており、BIMはもはや「選択肢」ではなく業界の「必須インフラ」へと移行しつつあります。これと並行して、エンボディドカーボンに関する情報開示への要請も強まっており、EPDの重要性はますます高まるでしょう。

しかし、完全な統合には課題も存在します。特に、あらゆる建材を網羅する高品質なEPDデータベースの構築は差し迫った課題です。また、異なるソフトウェア間のデータ連携や、新たなデジタルスキルを持つ人材の育成も、業界全体で取り組むべきテーマとなっています。

BIMobject:サステナブルな未来を設計するためのソリューション

建設・建築業界が直面する脱炭素化という課題に対し、BIMobjectは設計者の皆様をサポートするソリューションを提供しています。

1. データに基づく建材選定:サステナビリティ製品の検索機能

サステナブルな建築を実現する上で最も重要なステップの一つが、環境負荷の低い製品を「データに基づいて」選定することです。BIMobjectでは、製品検索フィルターに「サステナビリティ」の専門項目を搭載しています 。このフィルターを活用することで、以下のような信頼性の高い環境データが登録された製品群に的を絞って検索することが可能です。  

  • 【EPD】 (Environmental Product Declaration / 環境製品宣言):製品のライフサイクル全体(原材料調達から製造、廃棄まで)における環境負荷を、国際規格(ISO 14025など)に基づき算出し、第三者が検証した透明性の高いデータです 。  
  • 【CO2 emission】 (CO2排出量):製品の製造段階などで排出される温室効果ガスに関する情報です。
  • 【FDES】(Fiche de Déclaration Environnementale et Sanitaire): EPDと同様に製品の環境・衛生性能を示すフランスの公的な宣言書です。

これらの検証済みデータを活用することで、設計者はLCA(ライフサイクルアセスメント)の要件に対応し、プロジェクト全体のエンボディドカーボン(建材由来のCO2)削減 に貢献する製品を、設計の初期段階から確信を持って選定することができます。

2. 設計とLCAの融合:「BIM.com Design App」によるCO2排出量の算定

BIMobjectは、製品選定(インプット)から環境負荷の算定(アウトプット)まで、シームレスなワークフローを提供します。スウェーデンのBIMobject本社が提供する「BIM.com Design App」は、設計プロセスにLCA計算を直接統合する画期的なアプリケーションです。

このアプリは、Revitの設計モデルと直接連携し、プロジェクトが排出するCO2(特にエンボディドカーボン)の算定を自動で行います。

特徴:

  • リアルタイムな影響評価:設計者がBIMobjectライブラリから環境データ(EPDなど)が紐付いた製品をモデル内に配置すると、その選択がプロジェクト全体のCO2排出量にどう影響するかをダッシュボードで即座に確認できます。
  • 迅速な比較検討:従来、膨大な時間と専門知識を要したLCA算定 を、設計プロセスの中で迅速に行えるため、「A案とB案、どちらがより低炭素か」といった比較検討が容易になります。  
  • データ駆動型の意思決定:設計の初期段階でCO2排出量を「見える化」することで、CO2予算に基づいた最適な設計判断を強力にサポートします。

BIMobjectは、信頼できる製品データと強力な算定ツールを組み合わせることで、設計者の皆様が規制の要求に応え、真にサステナブルな建築物を創造するためのサポートを行っております。

まとめ:未来の建築を支えるBIMobjectのデジタル基盤

建設業界が直面する生産性向上と脱炭素化という二つの大きな課題に対し、BIMobjectはソリューションを提供します。

当社のプラットフォームは、EPD(環境製品宣言)に代表される信頼性の高い「環境のものさし」を 、BIMというデジタルな情報基盤に組み込みます。設計者の皆様は、BIMobjectの高度な検索機能を使って、CO2排出量やEPD情報が整備されたサステナブルな製品を的確に選定できます 。  

さらに、このデータは「BIM.com Design App」のようなCO2算定ツールとシームレスに連携します。これにより、設計の初期段階から環境負荷を定量的に把握し、データに基づいて比較・検討する合理的なワークフローが現実のものとなります。

この一連のエコシステムは、単に環境性能の高い建物を増やすだけでなく、設計者、建設会社、建材メーカー、そして発注者といったすべてのステークホルダーの意思決定プロセスを変革し、建設市場全体のグリーン化を加速させるポテンシャルを秘めています。

信頼できる「製品データ」と、それを活用する「設計・算定ツール」。BIMobjectは、この二つを両輪として、これからのサステナブルな建築を支えるデジタル基盤を提供します。このエコシステムの活用を推進することこそが、日本の建設業界が未来への競争力を確保し、持続可能な社会の実現に貢献するための鍵となるでしょう。